点光源によるボケ描写のチェック

 写真レンズのボケ描写を詳細にチェックするために作った2種類の点光源です。手前はポートレート撮影距離として撮影倍率1/20でフォーカスを合わせた、その前後の微〜小ボケの様子を見ます。奥はその2倍の距離にある豆電球で画面対角線の中心から右上部分に対して中ボケと口径食を見ます。

 ボケ味チェック点光源はフォーカスを合わせる基準点に対して前方3点、後方6点に微細な点光源があり、収差補正の結果としてのボケを見ます。

 オレンジ色にぼける豆電球は手前側の微細な点光源に比べると大きい点光源です。点光源も大きくなるほど微〜小ボケ領域では汚くぼける傾向が弱まり、言い換えると小さな点光源ほど、レンズのボケ描写においては曲者ということです。

 目の位置に基準点が来るように手に持ったボケ味チェック点光源で、ここではイヤリングなどの後方の微〜小ボケがわかります。フォーカスを合わせたシャープなところから徐々にぼけていく領域は、レンズのボケ描写の良し悪しが顕著に現れるところで、レンズを評価する上では重要です。

 ボケ味チェック点光源は、図で青く示した画面の中央、右1/2、右端、右上隅の4カ所で撮影します。通常のレンズでは開放では当然周辺ほど微〜小ボケは悪くなります。豆電球による中ボケはオレンジ色の対角線の右上部分を撮影します。ここでフルサイズ用のレンズをAPS−Cで使うと、画面周辺のボケ描写は相対的に良くなることがわかります。

 これはある85mmF1.4のボケ味チェック点光源の結果で、開放時の後方微〜小ボケは画面中央の開放ではわずかに二線ボケがありますが、F2に絞るとこれも消えて素直なボケになります。ところが周辺ほど二線ボケの傾向が強まりボケとしては悪く、写真の鑑賞条件によっては目障りです。そして後ボケが二線ボケになるぶん前ボケが柔らかくなりますが、この前後の関係は収差補正の結果として一般的な傾向です。

 オレンジ色の中ボケでは二線ボケが消えて、光の分布が均等な素直なボケになります。このように微〜小ボケが二線ボケであっても大きくぼけていくと二線ボケは消えていき、素直なボケになります。このように、ぼける大きさによってボケの質は変わります。

 また周辺ほど口径食の影響でボケが欠けていきますがF2に絞ると均等性は良くなります。なお隅のボケでは下辺が少し欠けていますが、これはデジタル一眼レフのミラーボックスによるもので大口径レンズほどこの影響を受けます。

 ソニーのEF85mmF1.4 GMのボケ味チェック点光源で、上のレンズとは逆に画面中央の後方微ボケは中心部に光が集まっていて滲みがあり、その流れで小ボケも大変柔らかく、いわゆる「味のあるボケ」として大変好ましいボケです。その小ボケの柔らかさも黄色の中ボケになると徐々に弱まり、素直なボケになります。そして後ボケが柔らかいことから逆に前ボケは二線ボケになります。

 画面中央では優れた後方微〜小ボケですが周辺に行くほどその良さは失われていき、微ボケはわずかながら放射方向に二線ボケが現れます。一般的な女性ポートレートで、後方微〜小ボケが現れるのはネックレスやイヤリングは比較的画面の中央にあるので実害はありませんが、被写体によっては周辺で微細な点光源がぼけないように注意が必要です。

 理想的な柔らかさと全画面で均一なボケ描写を実現したソニーの100mmSTFレンズです。口径比はF2.8ですがアポダイゼーション光学エレメントによる濃度のために実質的な明るさはF5.6相当になることからT5.6と表示されます。

 前ボケと後ボケ、小ボケから大ボケまで、そして画面の中心から隅まで、すべてのボケが均等の柔らかさです。点光源によるボケ描写のチェックでは現在世界で唯一、100点満点のレンズです。

 アポダイゼーション光学エレメントは通称APDフィルターといい、写真のように中心部が透明で周辺ほど徐々に濃度のあるフィルターをレンズの絞りの位置に置くことでボケにおける光の分布を制御します。

 APDフィルターでボケを強制的に柔らかくするレンズを私はAPD方式と読んでいます。ソニー以外にも3社が製品化していますが、いずれも口径食があるためにAPDフィルターの効果は画面の中央のみで、全画面で均等に柔らかいのはソニーのみです。その代わりにF2.8と暗めですが、これは口径食をなくして完璧なボケ描写にこだわったためです。

 なお、レンズの絞り表示のところでT5.6〜T8までをSTF領域にしていますが、この点光源チェックを見るとT6.3へと1/3段絞っただけで、せっかくの柔らかさは消えてしまいます。ということからこのSTFレンズは開放で使わないと、その価値を生かすことはできません。そこで私は絞りリングを開放のところでテープで固定しています。